1 経済発展段階からとらえた格差の変動
2 現代の海外諸国で再拡大する格差
3 再拡大する格差の背景となる経済社会環境の変化
4 格差拡大是正措置としての政策対応の考え方
平成19年度 年次経済財政報告
この「まとめ」の部分だけ抜き出してみると・・・、
『本節では、これまで述べてきた労働市場の変化が進む中での家計部門の対応について改めて整理し、特に重要と思われる分析内容、政策対応への示唆を指摘することとする。ずいぶんと控えめな表現ではある。
●非正規雇用の増加は雇用確保の利点がある一方で雇用形態の多様化を促進
景気回復が長期化した2006 年においては、正規雇用者が増加に転じたが、引き続き非正規雇用者も増加し続けている。増加する非正規雇用者の雇用形態の理由を尋ねた各種の調査結果によれば、「正社員として働ける先がなかった」という消極的な理由が2割程度みられていること、また、一般に家計の基幹となる男性に、そうした消極的な理由が比較的多くみられることにも留意が必要である。
人的資本の形成に関して、正規と非正規雇用者で差があり、それが賃金に反映されることが懸念される。賃金関数により要因を幾つかに特定した賃金の変化をみると、正規と非正規雇用者では特に正規雇用者の賃金に勤続年数が影響していることが示された。また、個人アンケートでみた能力開発では、上司などからのOJT や企業外研修の面で非正規雇用者は相対的に機会が少ない状況となっている。さらに、処遇についても同じ仕事内容でも同じ賃金体系となっていないが、企業側にとっては、非正規雇用者についての情報(定着性や能力など)に乏しいことから、あえて正規雇用者との均衡処遇ができない状況にあり、労働市場の効率性向上の取組が求められる。
また、非正規雇用の増加の背景について幾つかの検証を行った。IT 化との関連では、WEBやLAN といったネットワークの活用により、一般事務職の減少、アウトソーシングの進行の可能性がある。グローバル化との関連では、現地生産をする場合には正社員を増やす反面、逆輸入比率を高める場合には正社員をむしろ減らす方向に働き、空洞化への懸念が示された。また、女性労働力の高まりが非正規雇用によってまかなわれていること、さらに、団塊世代の退職の影響が、特に基幹労働者であり、かつ既に正規比率の最も高い「30 歳代労働者」の雇用不足感として表れており、雇用不足感の解消が困難である可能性も示された。
●雇用形態の多様化に対応した雇用保護制度の設計の必要性
雇用形態の多様化については、法制度が果たす役割も大きい。職業安定法に基づく労働者保護の観点に加え、雇用確保・活用という観点を備えた労働者派遣法が成立した。我が国のみならず、諸外国でそうした労働者派遣が活用されており、我が国と同レベルかそれ以上の普及がみられる国もある。
雇用保護制度と失業率の関係をみる場合には、経済全体としての雇用保護の影響だけでなく、よりきめ細かな視点から雇用保護規制をみる必要がある。雇用保護の制度の設計に当たっては、若年雇用への影響を見極める必要がある。
雇用形態の多様化が進む中で雇用保護規制を緩和する際に生じ得る労働紛争の増加に対応して、円滑かつ迅速な解決に資する各種紛争処理制度が広く普及されることが重要である。
●雇用形態の多様化に応じた労使交渉の仕組みで労働市場の効率性を図ることが重要
制度の充実とあいまって、労使間で効率的な労使交渉を行う場を設定する工夫も必要である。一般的な経済学の見地からも、労働組合の交渉力の強さと効率的な賃金・雇用決定との関係が導かれる。かつては、労働組合による組織化が資本家階級との労使交渉で有利な条件を引き出すために一定の役割を果たした。現在においても、2000 年以降、労働組合加入の労働者は、無加入の労働者に比べ、賃金プレミアムが存在すること、福利厚生の満足度が高いことなどが示された。
現状、労働組合組織率が趨勢的に低下しており、非正規雇用の増加などを踏まえると、雇用形態の多様化に対応した新しい労使交渉の枠組みを考慮する必要がある。そうした中で、労働者が企業と有効な労使交渉の場を確保するためには、企業内の発言型従業員組織や労使協議機関の活用も考えられる。実証面からは、こうした組織・機関についても賃金プレミアムが見いだされ、労働者の交渉力向上に寄与していることが示される。
非正規雇用者の増加などにより、企業内の労働組合に所属していない又はできない労働者が増加している中で、労働者が交渉を通じ労働価値に見合った賃金、労働条件が適切に獲得されれば、労働市場の効率性の改善にも資することになる。
●低所得者層への政策的な対応として考えられる社会保障・税・雇用を含めた制度設計
これまで、格差と成長については、クズネッツの逆U字仮説より、成長の過程でいったんは格差が拡大するものの、次第に縮小するとされてきた。しかしながら、最近の研究では、成長と格差が同時に進行する例もみられ、特に我が国やアングロサクソン系の国々で、そうした傾向がみられる。その背景として、一部にIT 化やグローバル化の要因もあるが、それだけで全てを説明することはできない。
今後、低所得者層への政策的な何らかの対応が重要とも考えられる。諸外国では、社会保障給付に税制や雇用の柔軟性を組み合わせた制度の導入がみられる。我が国でも、非正規雇用者を始めとする労働者への教育の機会の充実などの政策的取組が期待される。』
東京新聞の夕刊で鎌田慧氏は「格差社会製造法」と題して、かつての暴力団の日雇労働者の供給手段でのピンハネの例と比較して、政府の作らせた労働者派遣産業を批判している。そして、以下の文でコラム記事を結んでいる。
『「労働者派遣法」は、失業者の生き血を吸う天下の悪法である。製造業ヘの適用を中止し、それまではアプレ手当のある「日雇労働保険」を適用すべきだ。』
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